横溝正史の代表作のひとつ「八つ墓村」は、1951年に片岡千恵蔵主演で映画化されたのを皮切りに、計3作の映画が作られている。TVドラマに至っては計7作もあり、映像化される機会が極めて多い作品と言える。ただ、その中でももっともよく知られているのは、松竹の巨匠・野村芳太郎監督が手掛けた1977年公開の映画「八つ墓村」だろう。
数奇な運命に生まれた青年・寺田辰弥(萩原健一)が、四百年にわたる怨念が息づく岡山県の生地を訪れ、続発する血腥い殺人事件にまきこまれる姿を描く。名探偵・金田一耕助を「男はつらいよ」の渥美清が演じたことでも話題を呼んだ。脚本は「八甲田山」の橋本忍が担当している。原作の舞台は終戦後だったが、公開当時の1977年に設定したことで、祟りという概念が根強く根付いていることを、より強く印象づける効果をもたらした。
物語は、羽田空港で誘導員として働く辰弥(萩原)が、奇妙な新聞尋ね人欄の呼びかけに応じて大阪の諏訪法律事務所を訪ねる場面で始まる。そこで辰弥は母方の祖父だという井川丑松(加藤嘉)と対面するが、丑松はその場で突然倒れ、毒殺されたと判明。辰弥は見えない血縁の糸にたぐり寄せられるように未亡人・森美也子(小川真由美)の案内で、生れ故郷である八つ墓村に向かう。辰弥は乳児の頃に母・鶴子(中野良子)に抱かれて八つ墓村を去って以来、故郷に来たことはなかった。ただ、自分が村の名家・多治見家の後継者であると聞かされる。さらに村には戦国時代のおぞましい落武者惨殺の伝説があり、やがてそこで謎の連続殺人事件が勃発するのだった…。